LLP(有限責任事業組合)とはどんな形態か?
「会社の種類は3つ~株式会社・LLC・LLP~」のページでもご説明したとおり、LLPは有限責任事業組合(Limited Liability Partnership)といいます。
LLPを考える際には、「なぜ株式会社・合同会社ではない選択肢なのか?」がひとつの判断基準となります。
株式会社が資本金1円以上で設立できるにもかかわらず、なぜLLCやLLPという会社形態が創設されたのでしょうか。
その理由は、バブル期前後までは企業の競争力の源泉が建物・設備などの物的資源におかれていましたが、今日では技術やノウハウ・創造性などといった「ヒトの個」という人的資源に重きが置かれるようになったからにほかなりません。
LLPの「メリット」 | LLPの「デメリット」 |
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1. 利益分配を自由に決定できる | 1. 法人格がなく、会社組織に変更できない |
2. 節税効果が期待できる | 2. 事業の終期を定めなければならない |
3. 機関の設置が不要 | 3. 組合員の頻繁な加入・脱退には不向き |
4. 設立費用が安い | 4. 出資者=社員が2人以上必要 |
5. 知名度が低い |
メリット1.利益分配を自由に決定できる
株式会社では、個人がいくら業績を伸ばして成果を挙げても出資比率に応じた利益分配しかできません。
LLC・LLPでは、出資比率にかかわらず技術・ノウハウの提供や労務への貢献度を勘案して利益分配を自由に決めることができます(全員の合意と、定款への記載が必要)。多額の出資はできないが優れた能力で大きく貢献できる個人に報いることができます。
メリット2.節税効果が期待できる
株式会社やLLC(合同会社)は法人税が適用された後、配当に対しても所得税が適用されます。
ところがLLPは「構成員課税(パススルー課税)」が適用され、LLP自体の収益には課税されません。その仕組みは、LLCの収益が直接構成員にわたり、一人の所得に対して課税されるという形です。株式会社・LLCでは出資者の配当に至るまで結果的に2回課税(法人税・所得税)されるのに対し、LLPは1回だけ課税(所得税)されるので節税効果が期待できます。
メリット3.機関の設置が不要
新会社法が施行されて株式会社でも発起人1人・取締役1人での設立が可能になりました。しかしながら、株主が会社を所有して取締役(会)が経営を行うという「所有と経営の分離」には変わりありません。
少人数で、個を重視し、常に変化する状況に応じたスピーディな意思決定を行うには、株主総会や取締役会などの非効率的な組織運営は必要ありません。
メリット4.設立費用が安い
株式会社を設立するには実費だけで約25万円かかります。LLPは定款の認証が必要なく、また登記費用(登録免許税も6万円(株式会社は最低15万円)ですむため、約10万円で設立が可能です。
デメリット1.法人格がなく、会社組織に変更できない
法人格がないことは最大のポイントのひとつです。「事業を営む上で法人格がなくても大丈夫なのか」と思う方もいらっしゃいますが、LLPの財産の所有に関しては組合員全員で「合有」することになりますし登記簿にも組織名を入れることができるので、法人格がないことによる事業上の不都合はさほど大きくありません。
しかしながら、売買契約・業務委託契約・請負契約などの契約締結の場合に法人のように団体名で締結することができず、「オフィス清野有限責任事業組合 業務執行者 清野祐介」のように、組合の肩書付き個人名義で契約を締結することになります。
また、法人格がないので、株式会社やLLCに組織変更することができません。株式会社・LLCを設立する場合には、LLPを解散して新たに設立する必要があります。
デメリット2.事業の終期を定めなければならない
LLPは「有限責任事業“契約”」ですので、契約書において事業の終わる期限を定めなければなりません。なお、期限は契約により延長することができます。
デメリット3.組合員の頻繁な加入・脱退には不向き
組合員の新規加入・脱退にはその都度、全員の意思決定に基づく組合契約の変更と登記、損益の再計算が必要になるなど手間と費用がかかります。
しかしながら、スピーディな組織運営こそがLLPの強みですから、大きな問題ではないでしょうが、頻繁な異動が予想される場合にはLLCを選択するほうがよいでしょう。
デメリット4.出資者=社員が2人以上必要
LLPの出資者を社員といいますが、社員は2人以上いることがLLPの存続要件です。法律により、「出資者が1人になった場合にはLLPは解散する」と定められています。
デメリット5.知名度が低い
新会社法が施行されてまだ月日が浅いため、起業に関心がある方や取引がある方を除いて中小企業の間で「合同会社(LLC)」という知名度・認知度はいまひとつでしょう。
このことが、LLCで起業した方の業界でどのような評価を受けるかということがひとつのネックとなります。「株式会社」という名前を重視するような業界では株式会社のほうがよいかもしれませんし、合同会社・LLCという名称が問題とならないのであれば、LLCで起業してもさほど問題はないと考えられます。
なお、LLCの設立数は着々と増加しておりますが、LLCの知名度は現在経営を行っている方やこれからLLCで起業しようとしているみなさんの努力次第で大きく変わってきます。新しい会社制度を利用し、ご自分の力で周りの評価を変えていくことも経営の醍醐味なのかもしれません。